ジーマ船長

ジーマ船長の 痛快!!「船内は時化模様」

【第十五回】船上のいやし

船内はいつも、とんだハプニングが続いているというわけではない。そこで今回は、これまでの路線と違った話をすることにしよう。

読者がいやされると感じる時とはどんな時だろうか? 読者が気分転換としてやっていることは何だろう? 吾輩も船上でのくつろぎの時間、いやされる時間は何か、自問してみた。

う~ん、そう考えて、まず浮かんでくるものは、やっぱり海なのである。

ボサーっと船橋や自室から海を眺めている時だ。それも何もない海を見る時が一番いやされる。くつろぐのだ。抜けるような青い空と透き通るような蒼い海。その二色だけの抽象画を見ているようなシンプルさが良いのだ。これほどみごとに青と蒼が調和する景色はほかにない。

17万重量トン・全長300mの船橋から眺めるから、格別に壮観なのかもしれない。ただただ自然の偉大さというか、神々しいまでの調和に気分がなごやかになれるのだ。また、船橋でボサーと海を見ていると思わぬ話が聞けることもある。

そんな吾輩を当直の航海士や甲板手が見ると、非常に暇そうに見えるようだ。ふだん話さない自身や仕事上の悩み事を話しかけてくることがある。努めてボサーとして、部下が話やすい雰囲気を醸し出すのも吾輩の役目であると心得る。

さて、海を進化論的に言えば、地球の生物起源は海から誕生した。微生物がさまざまな海の生き物になって陸へ上がり、いろいろな動物に分かれて猿が出現し、ついには人間へと進化したことになっている。ことさら「なっている」というのは、吾輩が進化論を好まないからだ。

それはさておき、海のDNAはすべての生物が持っているのだろう。そんなことを思いながら海を見るから、おだやかになれるのかもしれない。人は母の羊水の中で過ごし、この世に飛び出してくる。知らずして羊水の記憶をたどっているからだろうか、眺める海にいやされる。誰が何といっても、海は船上の「いやし系」ナンバーワン。船乗りの役得なのである。

では、他の乗組員は? お国柄や各自の好みで賛否両論、十人十色というところだろうか。吾輩のナンバーツーはといえば、それはお笑い番組のTVを見ること である。最近はハードディスク・レコーダーなるものが出現し、何百時間というTV番組を自動録画してくれる。ハードディスクからDVDに簡単にダビングで きるので、乗船中にこれが見られるわけだ。

乗船中には、いろいろなことがある。昨今は、船長・機関長のみ日本人船員という船ばかりで、トラブルが発生しても相談したり、ともに検討したりする環境が なかなか作れないのが実情だ。日本人が5人以上乗船していた頃は、甲板部管理者はチョッサーで手に負えない問題はまずなかったが、現在ではチョッサーまで 外国人船員である。中には優秀な船員もいるが、ほとんどが日本人船員のようにはいかない。船長の負担は従来と様変わりし、当然行うべきチョッサーの業務や 提出書類さえもたまに忘れるのだ。

吾輩も船長になって7年目、今まで常にフィリピン人チョッサーと仕事を共にしてきたのである。チョッサーのすべての仕事を安心して任せられた者は、ただ1人であった。そのほかの皆さんは、だいたい5の仕事があるとすると1つは抜ける、忘れるのが彼らの常なのだ。

最初は鍛え上げようと、彼らを叱ったこともあった。しかし、最近の吾輩は一つの境地に達したようだ。「怒らない。どならない。追求しない」である。だが、そうはいっても吾輩とて人の子、言いたくなる時もままあるのだ。そんな時の吾輩のストレス解消法がこれなのである。

一杯飲みながら、お笑い番組を見る。腹の底から笑うと自然と不機嫌さが消えるから不思議だ。

笑いは一般的に精神と肉体の健康に大きな影響を与えるといわれている。吾輩も身をもって、自分自身の心の中のわだかまりを和らげ、いやしてくれる沈静作用があると思っている。一度お試しあれ。

ナンバースリーは、風呂(バスタブ)に入ることだ。ぬる目のお湯をバスタブ一杯にはって、ゆっくりと浸かる。これは極楽だ。何をやるのも嫌になって心身と もに疲れている時は、一番効果的かもしれない。

「いや~極楽・極楽~」と独り言。バスのへりを一つたたけば嫌なことも忘れられる。古き良き時代のドリフターズの歌「いい湯だな~あっは、はん」でも飛び 出せばきれいさっぱり、気分爽快になれるのである。

就寝2時間前に風呂へ入ると熟睡できるという科学的検証をTV番組で見てからは、実践を旨とする吾輩であるが、本当にぐっすり眠れるのだ。そうはいっても 清水使用が限られる船内生活では、そうそうバスに湯を張ることもはばかれる。吾輩が今まで乗船した船で個室にバスタブがあるのは、船長と機関長のみであっ た。これも職責の重さに比例しているからだろうか。

イメージ

サロンや食堂、船長公室などには、どの船も絵画が飾られている。どれも安物でないのは、見れば見るほど味わい深いのですぐにわかる。何気なく見ているだけ でも気持ちが和むもので、好きなジャズを聴き、スウィングしながら何気なく見る絵もこれまた楽し。

そして定番は観賞植物だ。これはどの船にもある。若い頃は余り興味がなかったが、最近はそんな歳になったのだろうか、葉の色艶や成長ぶりに目を止めるよう になった。日々の変化に気を配るのも楽しみである。つる科植物の成長の早さに目を見張り、花咲く植物の開花の瞬間は、無機質な船橋に華やかな生気をみなぎ らせ、乗組員のモチベーションを高めてくれるものである。
B.Rgds by Capt.Jima

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