ジーマ船長

ジーマ船長の 痛快!!「船内は時化模様」

【第十四回】海賊泥棒かっぱらい 忘れた頃にやってくる

世界中を回っている船舶では時としてこれらに出くわすことがある。その実態を紹介しよう。

今年吾輩は、初めて中国のドックに入った。そこでいつの間にやら700個のドックボルト(船倉に入る開口部についている大きな真鍮の蝶ねじ)といくつかの備品、乗組員の安全靴をやられてしまった。

「こそどろ」が多いという情報を事前に受け取っていて、いろいろと対策を取っていたにもかかわらずだ。

また、「すり」で思い出すのは、スペイン・カナリー諸島のテネリフェという港の小さな路地を日本人甲板手と歩いていた時の、もののみごとな二人組みのことだ。これらについて今回は、紙面の都合上割愛することとする。

「どろぼう」と言えば忘れられないスゴイ体験がある。これも前述のカナリー諸島ラスパルマス港での出来事だ。

その夜、若き二航士であった吾輩は、二機士と街へ繰り出し、飲んで歌って、心地よい時を過ごし、遅くに帰船した。しこたま飲んだため、自室のドアを開けるなり、鍵を掛けるのを忘れ、電気をつけたままベットになだれ込んでしまった。

「ワンちゃんの鼻」と異名を持つ吾輩の臭覚が異常を感じたのは、そんな熟睡した夢の中の出来事であった。何となく、黒い猟犬が近寄って来たような息づかいの「臭い」をベッドの横に感じたのだ。においがする夢ってのもありなんだなあ~、くらいにしか思っていなかった。

ところが!……朝起きて、びっくり仰天!ベッドのカーテンを引くと……ベッドのすぐ横の机の引き出しがすべて開けたままになっているではないか! ……財布は開かれたまま開けた引き出しにある!……。「くっそっ!」夢の中での出来事と思っていた〈あのにおいだけ〉は本物だったのだ。

さずがプロの仕事だ。引き出しはすべて開いたままにしている。朝、その話をボースンにすると彼は、またまたスゴイ話しをしてくれた。

彼は、昨夜22時にベッドに入ったと言う。彼もまたドアの鍵を忘れたひとりであった。夜中の3時頃、彼は枕元で小さな物音がするのを敏感に感じとった。ベッドのカーテンを少し開いて…、彼が見たのは…痩せたのっぽの黒人だった。

ボースンはとっさに日本語で「コラー!」と叫んだ。黙々と仕事をしていた黒人は、雄叫びに肝を抜かし、さっと部屋を出た。ボースンは追いかける。どろぼうは逃げる。階段は彼にとってまさにプロの見せ場だった。何と階段の手すりにお尻を乗せ、滑り台よろしく降りていったそうだ。ボースンも負けじと追いかける。

舷門でのんびりと当直をしていた甲板手は、居住区入り口から出てきた黒い人影を発見し、やはり追いかけた。すると、黒い人影はギャングウェイが引き上げられていると見るや、意を決して約6mも下の岸壁へ、猫のようにすっと飛び降りたという。その後、黒い人影は、暗いところへ逃げ込む船虫のように姿を消した。プロはズゴイ!

今年4月、アデン湾で大型タンカー「高山」が海賊とみられる船から、発砲を受け、船体に穴があいた。死傷者が出なかったのが幸いだ。この船は、吾輩も14 年前乗船したことのある船なので人ごととは思えない。

吾輩自身も以前、海賊らしきボートに出会ったことがある。二航士時代、ペルシャ湾より原油を積み、シンガポールを抜けて、その東方のアナンバス諸島を通過した時だった。

この当たりは昔から「海賊の巣」と言われているところで、当時も、もちろん海賊対策当直をばっちりしていた時のことだ。

月明かりもまったくない新月だ。南国特有のスコールが勢いよく降ってきた。夜中の2時。レーダに小さな高速船らしい映像が映ってきた。映像は船尾より本船に向かってくる。船橋ウイングの海賊当直の部員が言った「あの船、ヘンだぞ!本船の船尾へ着けようとしているぜ!」見れば大型クルーザーのような高速船が本船船尾に着けようとしている!

吾輩は間髪入れず汽笛をブーブー鳴らした。キャプテンに電話をするまでもなく、彼はすぐ船橋に上がってきた。乗り込みにくいように船をジグザグ航行とした。それでもその怪しげな船は、船尾からなかなか離れない。キャプテンは船橋乗組員に、乗り込まれた場合は絶対抵抗しないように!と厳命した。

こういう時の時間の流れの何と長いことか!彼の不審船は、5分くらい乗り込みをトライしていたようだが、うまく上がれず、あきらめて退散して行った……。

題名のとおり、これらは忘れた頃に突然襲われるケースが多いのだ。日頃より対策を練っていることが肝要である。気をつけよう!
B.Rgds by Capt.Jima

イラストレーター・かん プロフィール

□静岡県菊川市の田舎に生まれる□埼玉県鴻巣市在住□仕事はソフトウェアエンジニア□趣味は自転車、テレマークスキー、山歩き、イラストレーション、BLOG□軟弱アウトドア派。現在、3年前に買ったロードバイクにすっかり夢中。自転車倶楽部の諸先輩を見習いながら、元気な爺になるため、日々坂を登って鍛錬中。埼玉から東京都品川駅近くにある会社に通う。いつか信州の田舎にでも住んで、のんびりと情報発信でもしたいと考えている。

http://homepage1.nifty.com/nsfield/

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