ジーマ船長

ジーマ船長の 痛快!!「船内は時化模様」

【第十回】頼むぜい!! 自衛艦乗りたちよ もっとシャキッとせんかい

5月31日付共同通信社の海員水産ニュース(次ページに抜粋)にこんな記事が載っていた。

「知覚の盲点」以前にも

イージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事故(2008年2月19日発生)で、ぶつかった2隻は互いに止まっているような錯覚に陥るコリジョン(衝突)コースという位置関係だったことが29 日、第三管区海上保安本部の調べで判明した。

「えっ?!今ごろ何言ってんの??」というのが読後一番の吾輩の感想である。物体と物体が横切り関係にある場合、互いの方位が変わらないということは、見かけの上で止まって見える。その場合、2つの物体がぶつかる危険性が高いということくらい誰だってわかる。

例えば、2台の車が高速道路で同じ速度で並走していれば、いつまでも位置関係は変わらない。見た目に互いが止まって見えるのは当たり前のことだ。そのまま同じ状態が続いて、どちらかがちょっとハンドルを切れば、接触の恐れがあることは一目瞭然、誰でもわかることだ。

最新鋭のイージス艦乗りといえば、昨日今日乗った連中でもあるまい。船員と同じ航海者なら、他船との見合い関係で一番危険な位置関係が方位が変わらない状態。つまり衝突の危険があることくらい常識の範疇(はんちゅう)で あるはずだ。航海当直で一番重要なものが「見張り」だというくらい、商船なら昨日乗ってきたボーイでもわかること。

コリジョン・コース? 知覚の盲点?!…、何だか知らないが、海上保安部も保安部だ。こんな当たり前のことをもっともらしく記事にしないでほしい!

無性に腹が立ったついでに言わしてもらおう。

潜水艦「なだしお」と遊漁船「第一富士丸」の衝突の時もそうであった。海上では互いの船舶が横切り関係にある場合、相手を右に見る船舶が避けなければならない(海上では原則右側通行なのだ)。この原則は大洋上にあって30万総トンのタンカーと5総トンの漁船との関係でも変わらない。

例外規定としては、航路内を航行中の船や漁労中の漁船で相手を避けることが困難な船舶に対しては、他の船舶が避けなければならないというのがある。しかし、件(くだん)の「あたご」や「なだしお」はどちらも相手を右に見る船舶であり、相手を避けなければならない船舶であった。にもかかわらず、どちらもケースもまったくと言って良いほど避航動作を取っておらず、漫然と航行していたため事故は起きたのである。衝突原因は至ってシンプルで分かりやすい。

現在、吾輩が指揮する船舶は18万DWトン、長さ300m、幅50mの鉱石運搬船だ。満船時には、まさに「たらい」を操るがごとく、極めて操縦性能が悪い。4カイリ(約7㎞)以内はもはや危険範囲である。この範囲内の全船舶の動静を2台のレーダーで細かくチェックし、早め早めの変針により危険を回避している。

通常、大洋航海中の当直員は、広々としたブリッジに航海士1人と甲板手(操舵手)1人である。船舶の輻輳が予想される湾口の航路筋に近づくと、船長が操船の指揮を執るのは言うまでもない。大洋航海中の機関室はMO(エムゼロと言い、完全無人化自動運転)で、急に速力を変えることは不可能である。

そうした状況下にあって、このでかい船の航海当直者はわずか2人で、安全航海が保たれている。視界が悪くなれば、非番の要員を起こし、吾輩も船橋に詰めることは言うまでもない。こうなると昼夜の別なく、全員が働くことになるのだ。1人たりとも余分な要員はおらず、ぎりぎりの員数で日夜安全運航を遂行しているのが、われら一般商船の現況なのである。

それにつけても「あたご」の場合はどうだったのか?

当直士官と副士官、レーダ監視要員、見張り専属要員、通信要員、機関要員などなど、狭くて小さな艦橋は、人でごった返していたのではないのか。あまるほどの見張り要員がいて「コリジョン・コース」も分からず見張り不十分とは、一体全体なんなのだ! 烏合の衆、みんなでやれば怖くない、適当にやっていれば相手が避けてくれるだろう、という怠惰・怠慢としか言葉が見つからない。真剣味が足らん!

商船乗りをしっかり見習え!頼むぜよ、艦艇乗り諸君!
B.Rgrds by Capt.Jima

(注)シリーズ第10回は「海員」08年7月号に掲載されたものです。

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