ジーマ船長

ジーマ船長の 痛快!!「船内は時化模様」

【第四回】クルーと一緒楽しいお正月

陸の人に良く聞かれることの一つに船のお正月がある。大洋航海中に迎える元旦は、どの船も船長の年頭スピーチで始まる。簡単に乗組員と家族の健康を祝い「今年もガンバロー」。そんなあいさつで始まる。

元旦は、当直者を除いて基本的に休日だから、後はイッパイやったり、それぞれくつろぐのが定番だ。吾輩もこれまでは先輩諸兄のこうしたパターンを忠実に踏襲してきたのだったが、昨年はちょっと趣向を凝らしてみた。ゲームを取り入れたのである。これが予想を超えてフィリピンクルーに大好評。今回は、その事の顛末お話しよう。

ゲームは、年頭スピーチが始まる前から仕組んでいたのである。「またいつもの退屈なスピーチか?!」とのんびり構えていたクルーの目の色が一瞬に変わった。まるで獲物を狙う猛獣のように豹変したのである。

さて、読者の興味心をグッと惹きつけることができただろうか?「クルーとの楽しい’07お正月」とくとお楽しみあれ!!恒例の年頭行事は、事前の周知で午前8時開始なのだが、かなり前から数人のクルーがテーブルを取り囲んでカタフリに余念がない。昨夜遅く、密に行ったつもりの新年パーティの準備を覗き見されたようだ。数々の賞品が並べられているテーブルを囲んで品定めである。

そこへ吾輩が登場。おもむろに「皆、ここへ集まれ!早い者勝ちだ。ゲームの順番を決める。1等賞品はライク・Gショック(カシオと良く似ている)でっせ!!」この一声に、クルーは「俺が1番、僕は2番だ」などと口走りながら、今まで見たこともない軽快なフットワークで整列。中に仲間想いのクルーがいて、まだ来ぬクルーを呼びに走った。すばらしい!!

一般的に短くを良しとするスピーチだが、あえて長めにとった。しょっぱなの刺激が効を奏し、クルーの耳の通りがすこぶる良い。吾輩を見る目の輝きが違うのだ。まずは昨年の海運界を振り返える。「車でいえばスポーツクラスのわがコンテナ船は、燃料油価格の高騰をもろに受け、運賃が上がったにもかかわらず芳しくなかった。

一方、ばら積船は中国の旺盛な鉄鋼輸入を背景に相当の利潤を得た。自動車船もしかりだ。総合すれば海運界は依然、好景気が続いており、今年も明るい」。ここまではよくあるスピーチだが、ここからがオリジナルである。

「皆、生活を楽しんでるか?!」。クルーたちの大声一発「イエスッサー!!」。遊び心を旨とする吾輩は面目躍如であった。ここで改めて「吾輩のメーンポリシーは、乗組員皆が船内生活を楽しみ、それを生かし、仕事効率を高めることにある。楽しんでしっかり仕事をせよ!」。ここでもクルーは「イエスッサー!!」。

さらに続けた。「単純な仕事でもいい、定型的な仕事でもいい、今一度やっている仕事をリセットしてみてくれ。新しい視点に立って同じ仕事をやってみると、思わぬ発見があるものだ。リセットは大事なことだ」。日ごろミーティングで話しているので、ストーンと腑に落っこちたものと思う。

さて、スピーチが終わり白ワインで乾杯のあとは、お待ちかねゲーム・タイム。「今回はどんな趣向か?」クルーは興味津々だ。開始早々に決った順番での輪投げ大会である。9つあるピン、それぞれに賞品メモを貼った。これ目がけて賞品をゲットするという趣向である。

最奥右端ピンには、クルーたちの一押しの品「ビクトリア・シークレットのボディ・スプラッシュ(オード・トアレのようなもの)」。最奥左端ピンには件の「ライク・G―ショック」が控え、他のピンには中国SHEKOUで仕入れたカシオ製?腕時計やカップヌードル、ハーシー板チョコなどが鎮座する。

一番チーフコック。距離は約5mだから簡単ではない。残念賞の板チョコ1個に悔しがる。距離が長いため、レク大会で高得点のクルーも高位賞品の獲得に苦労している。いつもゲットできない不幸者の登場は、会場を一気に盛り上げて四方八方から喝采である。一巡して一押し賞品が1つ。

すばしっこいラザロ甲板手の二巡目がやってきた。1トライの成果はなく皆からの「ゼロ!」コールでわいた。

今回は間を取って慎重に投げている。輪は8つ。最後になったところで輪にキッスするところは心憎い。やがて最後の一投が放たれた。きれいな放物線を描いて……、ななんとボディ・スプラッシュのピンに吸い込まれるように落ちたのだ。すごい、歓声がいつまでも止まない劇的なラストシーンであった。

太平洋ど真ん中の航海中でもあり、日中はそれぞれにくつろいだ。そして夕食は、チーフコックが腕を振るうブッフェスタイルの豪華な晩餐である。いろいろ試したが、これが最もフィリピンクルーのお好みのようだ。

まずはノーフォーク仕入れのキング・クラブ。日本では見かけないカニで、大きめのタバラガニとも違うのだが、何しろでかい。身は甘く、もっちりしていて旨かった。ほかに串カツ、春巻き、焼きビーフン、ポテト・サラダなど。これに定番、子豚の丸焼きが加わる豪華さである。これは昼過ぎから船尾で、時間をかけてじっくり焼き上げた絶品である。さらに、海苔巻きがあったのには驚いた。

食事中はなんと静かであったことか。皆もくもくと食し、後に控えしカラオケパーティーに備えているようである。常とは大分違う豪華な食事とゲームにカラオケ。皆が笑顔で語らい歌い、楽しく過ごして明日の仕事につなげる。吾輩のポリシーを心置きなく実践できた、うれしい元旦の顛末であった。
B.rgds by Capt. Jima

(注)シリーズ第4回は「海員」07年12月号に掲載されたものです。

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