現場船員さんの声

【三等航海士(サードオフィサー)】 里見 正臣さん

Q.初めて舵を握ったときのことを覚えていますか?

あれは三宅島だったか神津島だったか。船員になって3年目、「さるびあ丸」に乗っていたときです。

入出港時には、船長に加え、当直の操舵手とエンジニアの3人が操船します。船長は艦橋(ブリッジ)最前部に立ち、船外に目をやります。だから計器類が目に入らない。操舵手が計器を読みとり、風向や風力、船の速度などを口頭で船長に伝える。エンジニアが出力などを伝える。それを聞き、船長は指示を出す。そんなふうにして、船を微妙にコントロールして岸に着けます。

初めて舵を握ったときは、船長を混乱させてはならないから、変なことは言えないし、でも言うべきことは伝えないとならないし。非常に緊張したことを覚えています。そのときは何とか無事に接岸することができました。ただし、船長の目には頼りなく映ったかもしれませんがね。

Q.失敗談を教えてください。

入社後、見習いの3カ月は、やることなすこと初めてで、失敗の連続でした。デリック(クレーン)は両手と片足、3つのレバーを操作します。船の揺れに合わせて、まっすぐ荷を上げ下ろす必要があるんです。でも、なかなか吊り荷を安定させられなくて。横波で揺れているところに、縦波も受ける。そうすると、コンテナがぐるぐる円を描き始め、貨物室に収められない。そうなると先輩から、「変われ」と命じられる。何度も悔しい思いをしました。いまですか? いまは後輩に「変われ」と言う側ですね。

Q.仕事上のこだわりはありますか?

船員は、職人っぽい人が多い。自分のこだわりを持っている人がたくさんいます。わたしのこだわりは、レッド(鉛)を投げることと、デリック(クレーン)の操作。これだけは、誰にも負けたくないですね。実際、好きな仕事でもあります。レッドとは、船から桟橋へ投げる係船索(ロープ)の先に付ける重りのこと。秒速20~25メートルという強い向かい風でも、レッドを桟橋に届かせる。「俺だから届いた」。そう思えるよう頑張っています。

デリックもそう。どんなに船が揺れていても、しっかり操作する。そのため毎日、イメージトレーニングをしています。波が静かなときでも、揺れている状態をイメージしながら仕事をする。なにもトレーニングしておらず、いざ荒天時に上手に操作できるかといえば、そんなことはない。あえて荒天時に練習することもできない。だから、ふだんから目的意識を持って仕事をするかが大切なんです。

Q.休憩時間には、何をしていますか?

本を読んだり、テレビ見たり。仕事にかかわる雑用もします。レッドを作るようなことですね。中心に鉛とパテを詰めて、重さを調整しキャンバス布で包みロープで編んで仕上げていく。あまり重たいと腕が振れないし、軽いと遠くまで投げられない。甲板手はそれぞれ自分に合ったレッドを持っているんですよ。

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